住環境医学研究会

Japanese Society of Indoor Environment and Health

 医学部会

 

2004年11月19日

最大の問題 シックハウス症候群と化学物質過敏症の違いについて
−鑑別診断−

 住環境医学会研究会副会長 大阪皮膚科医会副会長医師 笹川征雄

■混迷するシックハウス症候群
 
 「名古屋で妻飛び降り−頼まれ断り切れず−」2004年4月、シックハウス症候群が原因の自殺ほう助事件があった。妻がシックハウス症候群で苦しんでおり“死にたい”と懇願する妻を不憫に思って夫が自殺ほう助をしたというのである。だが、入手情報からシックハウス症候群ではなく、化学物質過敏症と考えられた。
 シックハウス症候群は住環境に起因する健康障害として認知を得たが、解明されていない部分もあり、また、正確な情報が伝わっていないために、様々な誤解や混乱を招いている。奇しくもこの事件が現在の混迷状態を象徴する事件となった。



■シックハウス症候群と化学物質過敏症をめぐる混乱


 混乱の主な原因は2つあり、(1)シックハウス症候群と化学物質過敏症の定義や診断基準をめぐる混乱、(2)医学情報量が少ないうえに、間違った情報や偏った情報による混乱である。
 直面する最大の問題は、シックハウス症候群と化学物質過敏症が混同され、同一視されていることである。疾病を解明する研究において、肝心の母集団の診断が混同され、同一視されたのでは、どのような最新ハイテク機器による検査を駆使したとしても、研究結果の信頼性が低いばかりでなく、混乱を招くと考えられる。だが、このような混沌とした状況で、臨床診断、論文発表、臨床研究、基礎研究がおこなわれており、医学面での影響ははかりしれない。ましてや、マスコミや一般市民が混乱するのも無理はないといえる。


■シックハウス症候群と化学物質過敏症の鑑別

 SHSとCSの違いを明確にすることは、医学的、社会的な混迷状態から抜け出すために、今、求められている最大の課題である。SHSやCSの概念や定義がコンセンサスを得られない制約の基ではあるが、現時点での学術的知見と自験例を基に鑑別をした。両疾患の鑑別点はTable2に示すように、(1)住環境との因果関係、(2)病態・発症機序、(3)量-反応関係、(4)症状の再現性、(5)症状の特徴、の5項目である。鑑別の条件は、(1)原因がVOCである場合。(2)診療した自験CS患者実態の考察を含む。とした。

シックハウス症候群と化学物質過敏症の鑑別(VOCによる)

 

シックハウス症候群

化学物質過敏症

住環境との因果関係

住環境に原因がある

住環境以外に、大気汚染、水、食物、土壌汚染、医薬品など、あらゆる化学物質が発症原因となる

発症機序

刺激、中毒、アレルギー機序

非アレルギー性の過敏反応

-反応関係

VOC濃度と症状は、量-反応関係が成立する

-反応関係は成立しない

症状の再現性

原因となる家から離れると症状が軽快、消失し、戻ると症状が再現される

再現性に乏しく、矛盾があり、確認が困難である症例が多い

症状の特徴

粘膜・皮膚刺激症状が多く、精神科症状は少ない

精神科症状が前面にでる。ほとんどの患者は臭気過敏症状の傾向がある

sasagawa 2004 )

※無断禁転載

トップへ戻る

 日本住環境医学研究会  
 Japanese Society of Indoor Environment and Health

Copy right ©2005 JSIEH All rights reserved